インタビュー前編
――まず竹谷さんの作った「1号雛型」とは、どういったものなのでしょうか?
僕の作業としては、前田真宏さんが描かれたイメージスケッチなどを基にしてゴジラ(第4形態)の側面図を描き、
それで各部の比率や全体のプロポーションを庵野秀明総監督やスタッフの方々に確認して頂きながら、
全体の形がほぼ固まったところで立体物を作り始めました。それで最初に納品した原型が1号雛型で、
これをスキャンして3Dデータ化したものが、映画で動いているCGゴジラの基になっています。
――第2形態と第3形態の雛型も、同時に作られたのですか?
最初は第4形態だけ依頼をされて、残り2つは後から追加されていった感じですね。第4形態を納品した後に「これも…」ということで第2形態を頼まれて、その後「やっぱり第3形態も立体物があった方が良いよね?」という話になって(笑)。
当初第3形態はCGだけで処理することも考えていたらしいんですけど、第2形態の雛型を複製して、それを改造したもので良ければ、と提案したら、「それでお願いします」ということになりました。第2形態の雛型は「絶対気色悪いって言われるだろうな」と思いながら作っていたんですけど、そういう印象ってやっぱり映画での見せ方次第で全く変わるんでしょうね。「蒲田くん」と呼ばれて妙に癒やしキャラ扱いされたりしていますけど……
ありがたいことですが何でそうなるのか正直わかりません(笑)。
――このゴジラ・ストア限定カラーVer.のカラーリングは、元々形状確認用のものだそうですね。
僕は立体物を作るとき粘土やパテなどの素材を組み合わせて使うんですけど、そのままだと素材ごとに色が違うので全体のフォルムやディティールの確認がしづらい。それで仮の色として黒や茶色を全体に塗って、形状を確認しながら作ることが多いんです。1号雛型もこの仮の色で塗って作業していたのですが、納品前の原型チェックのときに庵野総監督から「この色味で納品して下さい」と言われたんです。庵野総監督は当初から「第4形態は赤を使ったものにしたい」と仰っていたんですけど、具体的にどういう色にするのかはまだ決まっていませんでしたし、薄いスミ入れ塗装の方が細部の形状が良く分かるし3Dスキャンもしやすいだろうということだったんじゃないかな… あ、3Dスキャン用にはまた別に全パーツをバラで納品したような気が…すみません記憶が曖昧で。でも確か、第2、第3形態も一度塗装前の段階で3Dスキャンしているはずなので、この製品のような状態が一瞬あったということで…
結果このカラーリングをイメージした商品が出ることにも繋がったわけですね(苦笑)。
インタビュー後編
――S.H.MonsterArtsゴジラ(2016)の原型は、竹谷さんの作った雛型をスキャンしたCGデータが元になっているそうですね。
劇中用のCGデータを縮小して立体出力すると、細部はどうしても省略されてしまいますが、そういう部分はこちらで自ら補完する作業をしましたから、劇中に近い造形になっていると思います。
最初に「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)」の原型を作った頃は、実は映画『シン・ゴジラ』の作業がまだ終わっていなくて、第5形態の造形物などと並行で作っていたんです。でもバンダイさんから言われた納品日が迫って来て「どうしよう」と思っていたら、その数日後に庵野総監督や樋口真嗣監督が原型チェックに来ることになって、「総監督にも見てもらうので」とダシに使って締め切りを伸ばしました(笑)。関節などの可動部分に関しては基本バンダイさんにお任せだったのですが、よくこんなに動かせるように作ったなと感心しましたね。背ビレがビッシリと生えていて可動を仕込み辛いデザインのはずなのに、本当に良く考えられて作られているなと。
「S.H.MonsterArtsゴジラ(2016)第2形態&第3形態セット」も良く動くし、やっぱり第4形態と一緒に並べたくなりますよね(笑)。
ちなみに今回の商品彩色試作は、映画用の1号雛型に使った顔料が残っていたのでそれを使って同じ色に塗装しました。サイズが変わると同じ色でも違って見えるのでその辺りは多少調整しましたけど、元々のディテールが細かいですしまったく気にならないと思います。
――この彩色試作の塗装は、どのように塗られたのですか?
顔料と溶剤を程良い濃度で混ぜて、大き目の筆でジャブジャブと洗うように塗ると、窪んだ部分に塗料が少し溜まって、出っ張った部分には薄っすらと残る感じに仕上がるんです。最後にシンナーで少し拭き取って明るくしたり、陰になる部分をより黒く塗ったりして仕上げるんですけど、濃度を薄くし過ぎると溝にも残らなかったりするので、ちょうど良い塩梅が重要です(笑)。
――最後に、このカラーリングならではの面白さや楽しみ方を教えて下さい。
こういう濃淡のある生体っぽい色で3形態が統一されているのが、面白いですよね。生っぽさが感じられるし標本っぽくも見えるから、このゴジラには合っていますし。普通に机の上に飾るだけで、何か大人っぽい雰囲気がするから不思議ですね…ムリヤリですかね(笑)。
竹谷隆之(たけや・たかゆき)プロフィール
1963年12月10日、北海道生まれ。独自のデザインセンスとハイレベルな造形力で、
日本を代表するフィギュア造形作家。特に有機的なデザインを得意としており、『牙狼
』シリーズなどの特撮作品で美術デザインもを担当することも多い。