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俺とゴジラ

2014年12月11日

第二回 特技監督 川北紘一氏(後編)

川北紘一氏(映画監督/株式会社ドリーム・プラネット・ジャパン代表)が12月5日(金)、肝不全のため東京都内の病院で永眠致しました。72歳でした。1942年12月5日生まれ。東宝入社後、円谷英二氏、有川貞昌氏、中野昭慶氏に師事。1989年より「平成ゴジラ」シリーズの特技監督に就任。数々の作品で日本の特撮映像を牽引致しました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

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――ゴジラ映画全作品の中で、一番好きな作品を教えてください。

川北 一作目の「ゴジラ」と「ゴジラvsデストロイア」がいいかなと思っているよ。

――「ゴジラvsデストロイア」はゴジラがメルトダウンして崩れ落ちる瞬間がすごい印象に残っています。あれも川北さんのアイディアだったと富山さんからお聞きしたのですが。

川北 あれは(編集スタジオの)ソニーPCLでCGを作ったんだけど、実はそこまでCG入れないんだよね。
まずゴジラの骨格をワセリンで全部作ったの。まあ、蝋人形だよね。蝋人形で作って、口と目だったかな?シリンダーで動かしてるわけ。それを鉄板で囲って外からバーナーで当てて。下の骨格には骨が入っていて、それに全部表皮を被せている。だから段々と垂れてくるんだよ。あれは一発OKだったと思うな。何回もできないからな。わざとアナログとCGの両方を融合させたんだよ。CGを特撮のアナログの方に合わせて。アナログをCGが馴染むように合わせて。それで後は全体の質感を上げるために、金粉を飛ばして作っているわけ。

――ゴジラがメルトダウンするのは、平成ゴジラを象徴するシーンだったと思います。

川北 あの当時、メルトダウンっていう単語はあまり認知されてなくて、お台場のバトルエリアで、メルトダウンすれば、普通に考えれば放射能ムンムンだよな。それが収束した時に、金色の彼方から幻の時代のゴジラが出てきて一身に放射能を吸収して、放射能をクリーンにして帰っていく。ああいうシーンがやっぱりゴジラ映画の魅力だと思う。一作目のオキシジェン・デストロイヤーに通じるところがデストロイアにはあるし。そういう点では一作目と「ゴジラvsデストロイア」は好きなんだよ。

――全ゴジラシリーズで、ゴジラ以外で一番好きな怪獣は何ですか?

川北 難しいな。ユニークなのはクモンガとかね。あとはカマキラスとかね。操演大変だったもん。ああいう難しいものは今はやりたがらないんだよな。でも、すごいユニークな怪獣だし、あんなキャラクターに挑戦したのは面白いと思うし。今我々がやるっていったらみんなCGでやっちゃうもんな。あれをアナログで吊ってやってたのはすごいなと思うよ。

――それ以外で好きな怪獣は?

川北 いっぱいいるなぁ。恐竜タイプのゴロザウルスなんかもいいんだけど。でも中々人気がでなかった。あとは「ゴジラ ファイナルウォーズ」のガイガン。あれは良かったなと思うよ。あれがなぜ良かったというと、腹のトゲトゲにすごい仕掛けがしてあったしね。これはユニークな感じだなと。一つ目なのも、あの怪獣しかいないんじゃないかな。本当はねモスラとかキングギドラとかって言いたかったんだけど、わざと外して言ってみた(笑)。あと、ヘドラは大変だったな。動かないんだもん。動かないっていうよりあれは(スーツアクターの)薩摩剣八郎がゴジラに入ったんだけど、重たくて動けないんだよね。でも、あの作品は両方とも公害型の怪獣が戦うというユニークな作品だったよ。

――秘蔵エピソードはありますか?

川北 さっき言った一作目「ゴジラ」と「ゴジラvsデストロイア」に相通じるところが、もしあるとすれば、デストロイアは甲殻類が巨大化していったものだけど、我々が裏設定で考えたのは、1945年に日本が敗戦して、文京区の理化学研究所にあるサイクロトロンという原子核の実験装置をGHQが没収して、東京湾に1945年の11月に投棄するの。これは本当の話よ。それを投棄した時に、サイクロトロンの中に残留放射能が残っていたならば、地下の甲殻類に影響してデストロイアが生まれたり、ゴジラが東京湾にくる必然性があるんではないかという設定を考えたことがあったの。これは非公式でしか言ってないんだけどね。なぜ東京湾にゴジラが来たのか、これがあれば自然になるからね。日本の原子核のエネルギーはまだ完成を見てないんだよ。京大に理化学研究所と二つ原子核を研究しているところがあったの。両方ともダメだったんだけどね。日本でもそんなことをやってたんだよ。

――こんな怪獣同士を戦わせてみたいという夢のバトルがあれば教えてください。

川北 難しいなぁ。恐竜タイプみたいなのはいいかなと思うけどね。首長竜やフタバスズキリュウみたいな水中生息みたいなものと戦ったらいいと思うし。ゴジラっていうのは水息獣でもあるし、陸生動物でもあるし、まあ両方なんだけどね。過去の時代に生きた動物たちを今のDNAの技術によって復活させて戦わせたら面白いよね。

――設定的には、「ゴジラvsキングギドラ」の時のゴジラザウルスのような恐竜たちってことですよね。

川北 そうそう。ゴジラザウルスは好きなんだよな。ジャングルから出てきたりして。

――全作品の中で最強の怪獣だと思うものを教えてください。

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川北 キングギドラだろうな。キングギドラは強いし、三つ首であるし、一つ一つの頭が意思を持っていて戦うからキングギドラはいいのかなって思うよ。それで俺が作ったキングギドラの時には、(イラストレーターの)生頼範義先生にキングギドラを描いてもらうために九州まで頼みにいったんだよ。その時に今までの麒麟の竜じゃなくて鋭角的な三色の色を出すっていう先生のアイディアがあったの。これは力強いなって思ったね。いいなと思った。ああいうものを見ると圧倒的な強さっていうものを感じるよ。

――川北監督が考えるゴジラ映画の魅力はどこですか?

川北 科学映画であるし、戦争映画であるし、SF映画であるし、映画が持てるエンターテインメントの様々な形にゴジラっていうのは存在しているんじゃないかなぁ。だから我々もすごくやりやすいところもあるし、同時に枷があるから難しいところもあるし。でもゴジラ作品であるから、そういうことが出来るのではないかと。こういう映画の中で夢を語れるものはなんだろうって、ずっと思っていたんで、そういう点ではゴジラはやはり夢を形にできるスーパーキャラクターではないかなと。

――レジェンダリー版「GODZILLA」の感想はいかがでしたか?

川北 開口一番は、もうちょいドラマをわかりやすくしたほうが子供から大人まで幅広くなったんではないかなと俺は思う。ただ、ゴジラという作品だけで考えれば、(監督の)ギャレス・エドワーズの考えているゴジラ像っていうのは、モーションキャプチャーを使ってスーツメーションに合わせるべく、ゴジラの持つ鈍重さと力強さを出せたんじゃないかなと思うし。そういう点では大成功だったんじゃないかなと。それともう一つ、日本でこれが出来なかったのかという気持ちがある。日本でやるにはすごくハードルが高いんだけど、でもアメリカだからいいのかっていうと、そうでもないと思うし。やっぱり最初の方で原発を襲って放射能を食べるくだりがあるよね、あそことか、もうちょい日本的なアイディアを駆使してやればもっと良く出来たのかなと。何かゴジラのお株を取られてしまったような印象があるな。

――重いセリフですね。もし今後、ゴジラ映画が作られるとしたら何を望まれますか?

川北 今回のレジェンダリー版のゴジラもそうだと思うけど、意外と何かを壊しているところが少ないんだよね。俺なんかはバンバン壊しているんだけど、崩れた後の背景で戦ってるとか、そういうのしかないもんね。だからもうちょい、そこら辺がドラマチックに絡んでくれば面白いかなって思う。あと主役がどっかに行っちゃっているから、ムート―がもうちょっとバランス取れなかったのかなと思った。それは一作目のゴジラを踏襲してるんだろうと思うけど、もう少しゴジラを見てみたい。ゴジラが出てきてからの尺が短いんだよね。ムート―がオスとメスだっていうのはわかったけど、どうもあのキャラクターが日本人の感性に合うのかな?と思ったな。

――もしこれから日本がゴジラ映画を作るとすれば、特技監督としてどういう技術を盛り込んでみたいですか?

川北 CGが全て素晴らしいわけじゃないので、アナログを有効に駆使することも大事なのかなと思う。アメリカでもアナログでやっている部分もたぶんにあるので、それがCGの中に盛り込まれたりもするんだけど、そういう技術と別にCGでやらなくちゃいけないって事もないし、アナログでなくちゃいけないって事もないので、アナログをうまく取り入れながらモーションキャプチャーだったりCGIだったりを上手く使って一つの形にしていく、そういう事がこれからどんどん発達していくんじゃないかな。これからの若い人たちが垣根を超えることが出来るんじゃないかと思うよ。

――では最後になりますが、「俺とゴジラ」を一言で語るとしたら?

川北 「俺とゴジラ」でいえば、“戦友”だな。やっぱりあのスクリーンの中で勝ち取った勝利だったり、雄叫びだったりするので、それでもっともっと観客の皆さんにあっと思わせるような映像を提供していきたいなと思うね。それはゴジラの使命であり、我々がやってきた一つの目指すべき方向だったので。

――本日はありがとうございました。

※インタビュー取材は、2014年10月30日に実施致しました。

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